中2で初監督。19歳の映画監督・松本花奈さんの意外だけど最高な才能って?

「音楽を聴くのが好き! だから私はバンドをやりたい」。そんな話を聞くことはあっても、「映画を観るのが好き! だから映画を撮ります」という人はなかなかいません。

 

それが学生であればなおさらのことです。

 

 

上の映像はゆうばり国際ファンタスティック映画祭で審査員特別賞を受賞した『真夏の夢』という映画の予告編。

監督の松本花奈さんはなんと当時16歳の現役女子高生でした。

そしてなんと初めて松本さんがメガホンを握ったのは中学2年生のこと。

 

パッと見は明るい、どこにでもいる10代にしか思えない印象の松本さん。映画を観るのが好きな人と、作ってみようと思う人。その間にはどんな違いがあるのでしょう?

 

役者をしていた抱いた「みんなで作品をつくるって楽しそう!」

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—小学校時代は役者として活躍されていたんですよね?

 

「小学生のとき、AKBとか、アーティストのMV(ミュージックビデオ)が好きで、最初はダンスがやりたいと思って、習い事のような感覚で近所にあった『劇団ひまわり』に通い始めたんです」

 

—劇団でダンスを習っているうちに、役者に。

 

「私の中ではダンスの方がやりたかったですし、これといった転機があったわけではないですが、オーディションを受けているうちに徐々に役をもらえるようになりました。小学校4年〜5年のときが一番役者の活動が多かったです。

 

印象に残っているのは『サイドカーに犬』という映画。壁の近くで私がチョコレートを食べているシーンがあったんです。それを監督が壁の側から撮影したいと言い出して、でも壁があるからカメラ入れないじゃないですか? どうするんだろうって思ったら、壁を取り壊して撮影したんです。それがすごく記憶に残っていますね」

 

—それが記憶に残っているということは、その当時から映画を“つくる”ことに興味があった?

 

「かもしれないですね。役者は現場にいくときに手ぶらで行くけど、カメラマンさんはカメラや持ち道具があって、『すごいな』って尊敬していました。

 

つくっている側の人たちは、担当にもよりますが、撮影前の段階から、撮影、編集まで全部に携われるし、その分すごく仲が良さそうで、うらやましかったんです。私は役者だったので現場に行くだけで、若干孤独というか…」

 

—みんなで作品をつくっていく雰囲気が好き?

 

「そうです! 私、文化祭とかもすごく好きなんです。毎日文化祭でもいいくらいで、実際に文化祭実行委員長もやってました」

 

初めての動画制作、友だちの反応は「へー」

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—初めて自分で映像をつくったのは、いつですか?

 

「中学のときに、家のパソコンが新しくなったんです。少しスペックのいいやつで、そのときに無料の動画の編集ソフトを入れていじってみたら面白かった。家にあったビデオカメラで友だちと船を撮影・編集して、友だちが船から落ちる瞬間を30秒ぐらいの映像にしました。

 

友だちと親に見せたのですが、反応は『へー』って感じでしたね。でもカット割りを考えるのが楽しくて、次は30分で作りたいって」

 

—実際に30分で作ったのですか?

 

「中2のときに、クラスの友だちを誘って、夏休みをまるまる使って30分の映像を撮りました。

 

『カブトムシ踊る』というタイトルの、イケメンで人気者のお兄ちゃんと劣等生の弟の話。弟はずっとお兄ちゃんに憧れていたのですが、ある日お兄ちゃんが階段から落ちたはずみにオシッコを漏らしてしまうんです。

 

それをクラスの女子に見られたのが原因で、どんどんと評判が落ちていって、逆に弟は上がっていく」

 

—刺激的な話ですね(笑)。30分の映像を撮るとなると、かなりクラスの皆にも協力してもらわないといけないですよね。

 

「クラスの皆も最初は『面白そう』って協力的だったんですけど、深夜2時まで撮影で引っ張り回したりしていたので、だんだんとメンバーが減っていって(笑)。無茶振りでしたね」

 

初めて“みんな”で作った作品、映画甲子園で優勝

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—中学のときは友だちと話、合いましたか?

 

「映画の話については、合わなかったですね。だから高校を選ぶときは絶対に放送部の強い学校に入ろうと思ってて、日大付属の高校に入りました。でも、高1のときはダンス部に入っていて、まったく映像は撮ってませんでした」

 

—また映像を再開したのは?

 

「『KIKIFILM』という高校生の映像団体があって、そこに応募したのがきっかけです。全国津々浦々の高校生が全部で20人ぐらい。監督をやりたいという人だけじゃなくて、ホームページつくりたいとか、ポスターのデザインをしたいとか、いろいろな人がいました。

 

そこで『真夏の夢』という70分ほどの作品を撮りました。撮影期間は夏休みを利用して2週間ぐらい。7人のクルーで熱海でロケ撮影をしました」

—ひさしぶりに映像を撮ってみてどうでしたか? 大分規模感も大きくなりましたが。

 

「中学のときは、誰も一緒に映像をつくりたいという人がいなかったので、私がカメラを回して、編集もしてという感じでした。その団体に入ってからはカメラは人に任せてというように、みんなで映画をつくるようになったのが大きな変化でした。

 

それが最初は嬉しかったのですが、だんだんとやっていくうちに意見の食い違いが出てきたりもしました。でも、『真夏の夢』は一番楽しく、のびのびできた作品です」

 

—同作品で見事映画甲子園に優勝、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭にも正式出品されたわけですよね。

 

「映画甲子園に優勝した時は泣きました(笑)。早稲田大学の大隈講堂で行われた受賞式に7人で参加して、その後みんなでカラオケに行きました」

 

1枚のビジュアルからストーリーを紡ぐ

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—映画の作り方は誰かに教わったりしたんですか?

 

「まったくなくて。今通っている大学(SFC)も映像系ではないので、映像の作り方を学んだことはないんです。今でもよく分かっていないかもしれません。自分が役者として出演していたときに監督はこうしていたなとか、後は映画のメイキング映像を見たり」

 

—何かを始めるとき、とりあえず手を動かしてみるタイプなんですね。

 

「割とそうですね。『真夏の夢』を編集するときに初めて『Adobe Premiere』を使ったのですが、最初は何にもわからなかったけど、とりあえずやってみようと思って」

 

—映画をつくるときは、どういう順序でアプローチしていくんですか?

 

「映画であれば、映画のポスター、MVであればYoutubeのサムネイル画像など、まず1枚のビジュアルをイメージしてから、それをストーリーに広げていくことが多いです。

 

撮影のときは、可能であれば自分で撮影したいと思っているタイプなので、ある程度構図は頭の中にあって、それを編集のタイミングで並べていくというイメージです」

 

文化祭大好きガールはなぜ映画をつくるのか

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—なるほど。やっぱり映画を観るのは好きなんですか?

 

「私、実はそこまでたくさん映画を観ないんです。最近だと『君の名は』とか『ラ・ラ・ランド』とかそういうメジャータイトルを観たぐらいで。

私の場合はもともと大勢でワイワイやりながら何かをつくるのが好きなタイプなんです。文化祭だって実行委員長をやってて、毎日文化祭だったらいいのにと思っていたし、体育祭も大好き。

 

映画を通じて、いろんな人と関わっていくのが好きなんです。自分の好きな人たちと、自分の好きなことをやっている時間って最高だなって思いませんか?」

 

 

松本さんは、取材を終えた後に新作短編映画『過ぎて行け、延滞10代』の制作を発表。

 

報道した映画情報メディア・ナタリーの記事内には、20代前後で構成されているというチームメンバーの「松本監督とやれることが嬉しい」というコメントが掲載されています。

 

映像の道を突き進む松本さんの一番の才能。それは、中2のときから変わらず「みんなで一緒になにかをつくるのって楽しい」という想いで回りの人を巻き込んでいく力なのかもしれません。