【レポート】中高生トップランナー6人が集結!登壇者の「分岐点」から教育を考える「Edu×Tech Fes 2019 U-18」6年ぶりに開催
各界で活躍する中高生のトップランナー6人が、「教育」×「各テーマ」でプレゼンテーションするライフイズテックの一大イベント「Edu×Tech Fes 2019 U-18」が東京・渋谷の会場で開かれ、中高生のほか、企業やメディア関係者など約130人が訪れ、トップランナーたちの生の言葉に耳を傾けた。
本レポートでは、ライフイズテックの「Edu×Tech Fes」の歴史を振り返りながら、 「U-18」を今年開催した意義を説明するとともに、トップランナー6人全員のプレゼンテーションの「核」についてをお伝えしたい。各プレゼン内容を網羅した記事や6人によるエンディングトークの詳細については、後日、本マガジン上でアップすることにする。
「Edu×Tech Fes」の歴史を紐解くと、始まりは2012年。教育とテクノロジーの祭典といえるイベントで、これまで、教育やテクノロジーを切り口に、経営者や教育者、クリエイターなど各界で活躍されている方を招き、講演イベントを開催してきた。
今回は、中学生・高校生がプレゼンターとして登壇する「Edu×Tech Fes U18」で、開催は 2013年以来、6年ぶりとなった。
ライフイズテックでリアルサービス事業をまとめ、本イベントでも製作総指揮と司会進行を務めた西村諭美は、「2020年から始まるプログラミング必修化を背景に、プログラミングやIT教育への関心が一層高まりをみせています。そこで、日本の中学高校は6年ですから、ちょうど一周した今のタイミングでということです」と開催の意義を説明する。
「crossroad(分岐点)」をコンセプトに、中高生トップランナーたちが「Music」や「Global」など各テーマで語ってもらい、彼らの言葉から今後の新しい「教育×テクノロジー」の姿を考えていくことが大きな目的だ。
実際のプレゼンテーションは、10分のライトニングトークを1講演のようなかたちで、バトンタッチしながら進めていった。
6人のプレゼンテーションの前に、マイクロソフトに勤務し、漫画家としても活躍する千代田まどか(ちょまど) さんが基調講演を行った。
今でこそ、数千人規模の大型技術者カンファレンス(Developers Summit 2017)でベストスピーカー賞総合第一位を取ったり、海外数ヶ国で技術登壇をこなすなど、プレゼンの得意な千代田さんだが、しかし、最初は「人前に出るのが辛かった」「本番直前に机の下にもぐって震える癖があった」など率直に自身について語った。その後、自由な校風の高校時代にインターネットの魅力を知り、大学で親からパソコンを買ってもらったことが、プログラミングへの道に繋がったと話した。
さらに、新卒で入った会社に馴染めなかったことやマイクロソフトへの入社の経緯いについてもユニークに語り、来場者も熱心に聞き入っていた。
千代田さんは最後に、「あなたの人生に責任を持ってるのはあなただけです。あなたの情熱に従ってください。そして、アウトプットも重要です。アウトプットして、作品を公開すると、そこから自分の人生が切り開かれたりします。自分が作ったものはどんどんアウトプットする。私が言いたいことはこれだけです」とメッセージを送った。
プレゼンテーションのトップバッターを務めたのは、SASUKEさん。本イベントで華麗なオープニングアクトも務めた。
SASUKEさんのテーマは「Music」。
SASUKEさんは、5歳からダンスを習い始め、10歳でニューヨークにあるアポロシアターの「アマチュアナイト」で優勝。14歳の時に原宿で披露した路上パフォーマンスをきっかけに様々なメディアに取り上げられ話題となった。
さらに、新しい地図 join ミュージックの新曲「#SINGING」の作詞、作曲を手掛けるなどSNSを通じて海外、国内からオファー殺到中の15歳トラックメイカーだ。
プレゼンテーションは対談形式で行われ、相手は、西村とライフイズテックでリアルサービス事業全体を統括し、今回のイベントでは司会進行を務めた丸本徳之が務めた。
SASUKEさんは分岐点を「生まれた時」とした上で、「音楽が好きな両親のもとに生まれ、常に家で色んな音楽がかかっていました。自然に音楽が自分の体に入ってきたような感覚ですね」と幼少期を振り返った。SASUKEさんは音楽、ダンスの2つの軸を持っているが、2歳の頃から音楽を聴きながら踊っていたという。
5、6歳の頃、父のパソコンで簡単な曲を作れるソフトに触れたのが作曲へのきっかけとなった。その後、様々な音楽機材を「サンタさんにお願いして(笑)」手に入れ、14歳の時、東京の路上で機材を使って演奏していたところ、ツイッターで拡散され、関係者の目に止まり、今の活躍につながった。
その経験からSASUKEさんは、「自分の好きなことを突き詰めて発信すると、自分の世界がひらけていく」ことを感じた。
さらに「楽器ができなくても、音楽理論を学ばなくても、誰もが簡単に音楽がつくれる」と言い、実際にテクノロジーと機材を使って来場者の前で音楽づくりを実証。会場から大きな拍手が上がった。
続いて、登壇したのは佐藤和音さん、テーマは「Communication」。
佐藤さんは、8ヶ国語を独学で習得した国産マルチリンガルだ。英語は訛りのないイギリス英語で、ネイティブでも難しい最高のCEFR C2レベルに到達。中国語はHSK最高級6級に合格した。他にフランス語、スペイン語、イタリア語、韓国語等々というから驚きだ。
高校1年で高等学校卒業程度認定試験に合格し、2度の奨学金を得て英国留学、NHK会長賞受賞。アクティブラーナーを支援し、MOOCの普及率向上を目指すコミュニティ・ZOOMOOCを設立した。高IQ団体MENSA会員でもある。
佐藤さんは、幼少時から文字や言語の音が好きで、「自分の興味に没頭する子どもでした」と振り返った。英語や韓国語の歌をあっという間に覚えてしまったり、親が買ったフランス語のCDを60分丸々暗記したりしたこともあったという。
一方で、学校生活は、手先が不器用なディスプラクシア(統合運動障害)という障害を持っていて、いじめに遭い、3回ほど転校を経験した。そんな時、親がいつも佐藤さんを海外旅行に連れて行ってくれ、「世界には、いろんな宗教、文化、国、人がいる。いじめっ子の常識は果たして世界標準だろうかということをよく自分に問いかけてました」と語った。
そして、大きな分岐点として、全日制高校から通信制に移ったことを挙げ、「通信という環境でできることやってやろうじゃないかと。人と同じになろうとしたってなれないんだから、いっそのこと違うことやってやろうという風に開き直ることにしました」と力を込めた。
その後の活躍は経歴で前述した通り。佐藤さんが今、運営しているのが、ZOOMOOCというコミュニティ。「自分で自分の学びを創造する」をテーマに、インターネットを介した公開オンライン講座MOOCの学習者・学習希望者を繋ぎ、自発的に学ぶ中高生アクティブラーナー促進・支援を目指すコミュニティだ。
最後に、尊敬するネルソン・マンデラ元南アフリカ大統領の「教育は世界を変えるために、あなたが使うことができる最も強力な武器である」という言葉を引用し、「自分で自分の学びを選択し、コーディネートする。そういった時代が到来しつつあります。そういう時代が来る中で、自分は何者で何を目指すのか、どんな自分になりたいのか。どんな社会を作り上げたいのか。これを考えていくことが、僕らの今後の羅針盤になっていくのではないでしょうか」と締めくくった。
前半のトリを飾るのは、プレゼンターの紅一点、西林咲音さん。テーマは「Weakness」。
西林さんは、2016年10月開催の中高生のアプリ開発コンテスト「アプリ甲子園」で全国決勝大会に出場。2017年10月の同大会では自らの持病の経験をもとにし、「可視化」に重きをおいた体調管理アプリを作成し、2000件以上の応募の中から全国決勝大会に出場した。
現在は、AppStoreにて3本のアプリを配信中で、1万DLを達成。2018年には、第23回国際女性ビジネス会議で登壇も果たした高校3年生だ。
きらびやかな経歴を持つ西林さんも、「私は普通の女子高生で、休日には友達とカフェに出かけたりふざけあったりテレビを見たりと、案外普通に過ごしています」と語り始めた。
ライフイズテックの夏キャンプがプログラミングとの出会いだったと振り返り、「普段使っているアプリは、当たり前だけれども誰かが作っているものであって、それが自分自身でもいずれできるのではないかと本当に非常にワクワクする体験でした」と語った。
西林さんは、伝えたいこととして、「短所を長所に変えるということ」、「チャンスをつかむということ」の2点を挙げた。
前者について、偏頭痛という持病を抱えていた西林さんは、Calmというヘルスケアアプリケーションを開発した。学校の時間割を登録し、発作を起こした日の日記を書くことができるアプリで、時間割の出欠を記録して、その日の体調の度合いを色で表すことができる。
西林さんはこの作品で、アプリ甲子園2017の決勝にも進出した。「持病という短所を素敵な作品に作り変えることができました。短所の度合いは様々だとは思いますが、自分自身の短所について蓋をせず、一度考えてみてはどうでしょうか」と語った。
後者については、チャンスをつかむのが怖くなった時、「まずはオッケーと言ってください。チャンスが自分に釣り合ってないものだとしても、実力不足で不安だとしてもまずは OK と言います。そうすれば断るのもなかなか大変に感じるし、いつのまにかチャンスをつかんでいるということがよく出てくると思います」と話した。
休憩を挟んで、後半のトップバッターは山内 奏人さん。テーマは「Entrepreneur」。
山内さんは、高校3年生。2012年、「中高生国際Rubyプログラミングコンテスト」の15歳以下の部で最優秀賞受賞。2016年、ウォルト株式会社(現ワンファイナンシャル株式会社)を15歳で創業し、クレジットカード決済アプリ「ONE PAY(ワンペイ)」をリリースした。この時、1億円の資金を調達したことでも話題になった。
2018年、レシートを1枚10円で買い取るiOS向けアプリ「ONE」をリリースした。
山内さんは、自らを「エンジニアでもなければデザイナーでもないし、ビジネスがすごく得意な人でもなければ、お金持ちでもないんですね。ただの起業家で、僕は起業家ってうるさい人だと思っていいます」と語り始めた。
その上で、尊敬するある会社のCTOの「CTOがDJ と同じなんだとしたら、やはり必要なのは好きな曲をかけて誰よりも踊ること」という言葉を紹介し、「経営者やCなんとかOっていうような人達って、みんな好きな曲をかけて、誰よりも踊る人だと思ってるんです」と話た。
その後、小学校時代に保健室登校だったことや、事業を3つ潰したことに触れ、「そんな中で、非日常が大好きになっていったんです。それは無常観があるから。全てのものは変化し続ける。先のことは分からないから今を楽しもうという風になった」と自身の考えの背景を説明した。
そして、非日常を楽しめるディズニーランドや映画館を例に挙げ、「非日常を世界に実装しようって言ってるわけです。魔法を世界に実装しようと。魔法使いが杖を使うように、僕らはテクノロジーを使って魔法を実装していく。だからこそ僕は、好きな曲をかけて誰よりも踊る人であることを誇りに思っているし、常にそうありたいと思ってます」と語った。
続いて、中島芭旺さんが登壇。テーマは「Philosophy」。
中島さんは、「自分で選択して学習」、「好きな人から学ぶ」がモットーの中学1年生。10歳で出版し、日本では累計17万部のベストセラーとなった。
その後、韓国、台湾、ノルウェー、ドイツ、ベトナム、中国と、世界7か国での出版も果たした。
中島さんは、小学3年生の時に不登校になったことが本を書くことの入り口になったことを明かした。本を書こうと思った理由については、「ゲームの課金をしたかったからなんです。お母さんに頼んだんですど、それはちょっと嫌だなって言われて。その頃、小学生の頃から起業している人に会いに行って、小学生でもお金を稼いでいいんだって自分に許可をすることができた」と話した。
その上で、どうして実際に書いて出版まですることができたのかと聞かれることもたくさんあるとし、「まずやってみるだけなんです、本当に。準備だとか体裁だとかそういうの取っ払って、まず最初にやってみないと変わらないと思うんです」と話した。
一方で、行動に移さないで言い訳をするもう一人の自分もいるとして、「言い訳してても言い訳の技術が上がるだけで、スキルとか経験とか絶対についてこない。今、インターネットというものがあるからなんでもできる」と力を込めた。
そして、大トリを飾るのは、中馬 慎之祐さん。テーマは「Global」。
中馬さんは、現在、Canadian International School Singapore Lakeside Campus G9。2015年、小学校6年生の時にU-22プログラミング・コンテスト2015 経済産業大臣賞受賞、アプリ甲子園2015では最年少で優勝を果たした。さらに、アプリ甲子園2018でも準優勝。
孫正義育英財団の支援を機に、2018年からシンガポール留学を実現させた。
中馬さんは、大きな分岐点として、「孫正義育英財団1期生に選んでいただいたことで、僕の夢の一つであった留学をするチャンスが訪れました」と話した。
中馬さんは卵アレルギーを持っていて、その自身の弱みを生かし、アレルギーを持つ人向けのアプリ、allergyを開発し、前述のアプリ甲子園などで成果を出した。
シンガポールを選んだ理由について、「シンガポールは、お母さん連れて行けるので、寮に入らなくても大丈夫でした。お母さんが料理、お弁当を作ってくれますから。僕のアレルギーっていうのが結構関係します」と話した。
シンガポールにおける教育に関しては、「全てのクラスでMacBookを使っています。95%以上、いや、99%ぐらいですね。日本で学んでる人からしたら考えられないと思うんです」と説明した。
日本の教育の違いについても、「シンガポールでは、自分で調べた信用できる情報を元に、自分で考え、仮説を立て、実験し、自分の意見を入れて、結論を出すレポートっていうのがほぼ全教科であります。日本では答えは一つで、答えさえ暗記すればいいみたいな面もあります。シンガポールと日本では求められるものが全然違います」と指摘した。
一方で、「もし僕が紙と鉛筆の時代に留学してたら、間違いなく挫折してたなって思います。Macがあるから授業中わからないことがあればすぐ調べられるわけです。 Google もあります。テクノロジーに助けられました」と語った。
そして、最後に「僕の留学を成功させたスキルは、新しくシンガポールで身につけたものというより、僕が今まで日本でやってきたこと」とし、「本当に必要なのは、環境とかツールとかに全く左右されない自分自身の力。ツールを駆使し、舞台の上で、あなた自身があなた自身の力でどう舞えるか。それが一番大切なことです」と締めくくった。
全てのプレゼンテーションが終わると、6人が壇上に上がり、ライフイズテックの創業者で、代表取締役CEOを務める水野雄介とともに、来場者らの質問に答えるエンディングトークが行われた。「どんな学校があるといいか」、「格好いい先生、大人とは」、「自分が親になったら子どもにどんな教育や経験をさせたいですか」などといった質問に6人が丁寧にそして率直に答えた。
本イベントの最後には、水野が登壇して、会場に語りかけた。
「準備はやっているけれど、やっぱり6人みんな緊張していたと思います。少しでも誰かに自分の思いが届ければとプレゼンしてくれました。その気持ちに大きな拍手をしていただければと思います。今日感じたのは、スーパー中高生と呼ばれる6人も、葛藤したり苦しんだりする中で乗り越えてきて、今があるんだと思います。今日みたいに自信を持って話せる子どもを増やすために、僕ら大人がやらなきゃいけないことは多いです。6人に本当に感謝しています。ありがとうございました。次回開催の2025年、また大きく時代が変わっていると思いますが、その時を楽しみに、僕らもいろんな環境を整えて行きたいと思います」
こうして6年ぶりとなった「Edu×Tech Fes 2019 U-18」が幕を閉じた。