NEC×丸井グループ×Life is Tech ! 「経営層が変わり 現場の変革をドライブする仕掛けとは」【イベントレポート】

ライフイズテックでは2024年12月、「経営層が変わり 現場の変革をドライブする仕掛けとは」をテーマにしたスペシャルイベントを開催しました。

未だ日本には、デジタルに対する苦手意識や無理解、これまでのやり方を変えることへの抵抗感など、組織風土が原因となりデジタル変革が進まない企業も多くあります。一方で、デジタルスキルを標準装備した世代が2029年には社会に出ることが見込まれており、この新しい世代の力が最大限発揮され、イノベーションの創出へと繋げていくためにも、組織変革のカウントダウンが始まっています。

そこで、今回は森田 健氏(日本電気株式会社(NEC) ピープル&カルチャー部門 カルチャー変革エバンジェリスト)、原田 信也氏(株式会社丸井グループ 人事部長)、関口伸之(ライフイズテック株式会社 DX事業部  事業部長)が登壇し、各企業での取り組み紹介とパネルデスカッションを行いました。

停滞する現場のDXをドライブさせたい方、デジタルや新しい世代の力を活用できる組織への変革を目指す方はぜひご参考ください。



イベントの冒頭では、ライフイズテックDX事業部 事業部長の関口が登壇し、高度なITリテラシーを兼ね備えた“新・デジタルネイティブ世代”の特徴と、彼らが新卒入社する2029年が迫っているという背景をご紹介。その世代の力を最大限に活用できる組織になるためには、業務変革でイノベーションを生み出し事業成果に繋げる「現場DX」が重要であること、現場DXを推進するためには育成課題と組織課題に向き合う必要があることをお伝えしました。

こうした現場DXが加速し、デジタルや新しい世代の力を活用できる組織作りに取り組んでこられたNEC様、丸井様の事例をお話しいただきました。

【セッションNECの企業変革〜若手の力を経営の力に〜 / 日本電気株式会社(NEC ピープル&カルチャー部門 カルチャー変革エバンジェリスト森田 健 氏

NEC企業変革の背景

森田氏:
最初にNECのこれまでを簡単にお話しします。半導体ビジネスの急速な変化を受け、2011年に事業ポートフォリオの大きな入れ替えがあり、2012年には経営の危機を迎えました。そこから事業を製造業のビジネスモデルから、ITサービスや通信中心に切り替えましたが思うようにいかず、最終的に気づいたのは、やはり製造業のカルチャーとサービス業のカルチャーは全然違うということです。事業を入れ替えたら、カルチャーも変えていかなければならない。そこで2018年から様々な改革をし、“Project RISE”という全社的な人・組織の改革を経て、業績回復を実現しました。

“Project RISE”と変革の要、「経営層」

一番の変革は、社員のエンゲージメントを経営の中心に置くということです。社員組織に投資をした結果、エンゲージメントサーベイのスコアが上がり、それと共に株価も上がり、企業価値も6年間で4倍に。昨今、人的資本経営が注目されていますが、まさしくその通りで、最終的に利益を出すのは社員なので、社員が元気にならなければ会社はうまくいかない。当たり前ですが、そこに気がつきました。

“Project RISE”では、人事制度と働き方とコミュニケーションの改革に取り組みました。人事改革では、評価制度を変え、外部人材を積極的に採用した結果、ダイバーシティ豊かな会社となりました。働き方改革では働く時間・場所・スタイルの自由化、コミュニケーション改革では、上意下達といったカルチャーを変えて、オープンな会社を目指したことで、今は働き方もコミュニケーションもかなり自由です。これらを同時進行で改革していくのが肝だと感じています。

また、この10年の変革の要は経営陣でした。「変革は上から」というのは歴代の社長の口癖で、組織は上から腐るもの。ボトムで一生懸命会社を変えようとしても無理で、全てを決める権力者が変わらなければ会社は変わらない。特に我々のような大きい会社は社長一人で頑張っても困難で、経営チームが同じ方向を向かなければならず、これを「面の経営」と呼んでいます。

2011年頃はこの点でうまくいっておらず役員が縦割りの状況だったため、2つのコミュニケーションをしっかり構築し直しました。1つ目は、役員、部門長、統括部長がそれぞれの横のコミュニケーションを強化し、意思決定の高速化を図る「面のコミュニケーション」。もう1つは、直属の上司部下で会社方針や戦略について対話することで自分事化し、自身のコミットメントとの紐付けを図る「カスケードコミュニケーション」。この2つのコミュニケーション基盤が、今では完全にNECの経営スタイルになっています。

リバースメンタリングセッションの狙いと効果

エンゲージメントスコアは上がってきているものの、メンバー層はまだまだ上がる余地が残っているのが現状です。このスコアは経営との距離感が反映されるので、最終的な目標は社員1人1人が経営にコミットしてもらうこと。特に若手の力を経営に活かしたいということで、今年ライフイズテックさんと一緒に「Tech to the Future NECの未来は自分達で作る!」というテーマで、リバースメンタリングセッションを実施しました。

前提としてNECの年齢構成は50歳以上が43%、35歳未満が21%。我々のようなベテラン世代が元気で、悪気なく若手の活躍の場を奪ってしまっているという問題もあるので、マインドセットから抜本的に変えたいと思いました。我々の時代は、入社して3年5年は下積みという考えでしたが、今の世代とは合わない。それぞれの役割分担があって、両利きの経営でいう深化はベテランに、探索は若手が得意だと思っています。若手には将来のNECを作ってほしいので、特にDXの分野を任せていく。そんな会社にするための準備を始めました。

実施したのは、役員自身だけではできないことや知らないことを若手から学ぶリバースメンタリングセッションです。私がこだわったのは、役員にショックを与えて、行動変容に繋げたいということでした。

実際に参加した役員は「全然叶わない」「若手に任せた方がいい」という感想で予想通りでしたが、実施後のアンケートでは、「役員のアウトプットのスピードや質の高さに圧倒された」という新入社員からの反響も多く聞かれました。後日一緒に食事に行ったり、人間関係を構築しているようで、変化が起きている。そんな役員達が若手をプロジェクトの最前線に送り込んだり、いろんなことを任せたりすることで、今後さらにNECのカルチャーも変わってくるのではと感じています。ここで、参加した新入社員の志賀さんから感想を共有してもらいたいと思います。

志賀さん:
役員は雲の上の存在で緊張していたのですが、当日はハイタッチしたり、フランクに話ができたり、良い意味で驚きがありました。「上司から飲みにいこうと言ってもらえたら嬉しい」「趣味の話もしたい」といった新入社員の声も多く、役員側も「新入社員のイメージが変わった」と驚きがあったようです。役員の仕事を知るきっかけにもなり、NECに対する知識や帰属意識も高まりました。

森田氏:
ありがとうございます。NECでは「私たちは変わり続けることをやめない」がスローガンになっています。今後も若手の力を経営に活用して、カンフル剤にしていけるかが私たちの課題だと思っているので、さらに規模を拡大してバージョンアップしていきたいと思います。

【セッション】丸井グループ「未来に向けた人的資本経営の取組み」 / 株式会社丸井グループ 人事部長 原田 信也 氏

丸井グループ企業文化変革の背景

原田氏:
当社は、創業93周年で現在の社長が三代目となりますので、比較的社長の在任期間が長い会社かと思います。祖業が家具の月賦販売(分割払い)ということもあり、小売と金融が一体となったビジネスモデルを続けてきまして、日本で最初にクレジットカードを作ったのも丸井グループになります。

業績推移としては、バルブ経済のピークだった1990年に過去最高益を達成し、その後は長い停滞期に入っていました。2007年あたりから貸金業法改正やリーマン・ショックの影響もあり経営危機に陥り、上場以来、初の赤字決算を強いられる大変厳しい状況でした。そこから2014年以降は業績回復に転じており、その要因となったのが企業文化の変革だと考えています。

停滞期に自ら変革ができなかったという反省を踏まえて、現社長の青井が掲げた目指すべき企業文化が、「強制ではなく自主性」、「やらされ感ではなく楽しさを」、「上意下達のマネジメントから支援するマネジメントへ」、「本業と社会貢献から本業を通じた社会課題の解決へ」、「業績の向上から価値の向上へ」というものです。当社では、こうした企業文化は経営のOSに相当するものだと考えており、この新しい企業文化というOSを更新した上で、サステナビリティやDXがアプリケーションとして進むと考えています。

現場変革をドライブさせる、「DX研修」と「アプリ甲子園」

この目指すべき企業文化を作るため、ライフイズテックさんと共に「現場の変革をドライブする仕掛け」としてDX研修とアプリ甲子園に取り組みました。DX研修については、受講の順番にこだわっていて、2021年12月にまずは役員向けに研修をスタートし、次に新入社員、さらには手挙げで参加を希望した既存社員にも拡大していきました。

そして、学んで終わりではなく、研修後には新規事業アイディアを競い合う「丸井グループアプリ甲子園」を開催。評価基準は独自性、スケーラビリティ、実現可能性。つまりビジネスとしてアプリを審査する場であり、新入社員と先輩社員が本気で勝負できる機会です。新入社員には、若手から企業文化を変えるという意味でも優勝を目指してほしいと伝えたところ、勝てるわけがないといった声も多く出ました。ただ、やはり私たちとしては、若手からの突き上げで組織を活性化することを目標としてきたので、これが現場の変革をドライブする仕掛けだと考えています。

丸井グループアプリ甲子園の第一回は、新入社員49名や役員も含めた150名が参加し、うち53名が決勝に進出。最終的に4人の新入社員で構成されたチームが優勝という結果になりました。詳しくはオウンドメディアやYouTubeで公開しています。(動画はこちらよりご覧いただけます)

アプリ甲子園のその後

アプリ甲子園は、想定以上に新入社員のポテンシャルを実感でき、新入社員にとってはやりたいことを見つかるきっかけにもなっています。あれから2年、優勝チームの新入社員のその後ですが、リーダーは希望通りの財務部に配属、テック担当の2人は文系入社だったものの研修を通して自分はデジタルが向いていると気付き、システム部門を希望して配属となりました。事業アイデアについては、社長とも定期的に壁打ちをしながら、本業と兼務で事業化に向けて検討を進めています。

こうした取り組みと同時期に、未来に向けた人的資本投資として、飛び級のような形で早期に管理職に登用できる制度を導入しました。最短26歳で管理職になれる制度へと改定。全社員向けの説明会ではベテラン層の反応が気になりましたが、「直近のアプリ甲子園を鑑みても若手層の上位ポジション早期投与が必要」「若手活用に向けて組織風土の醸成が必要」といった声もあがり、こういった風土のもとでDXの変革も起こってくるのではと思っています。

人的資本投資・DX研修の投資のリターン

最後に、当社が人的資本投資のリターンをどう考えているのかご紹介します。2017年度〜2021年度の5年間に320億円の人的資本投資を行い、その期間にアニメ事業や家賃保証などの新規事業が創出された限界利益をリターンとみなすと、2021年の10年間で生み出された限界利益は、約560億円、IRRは12.7%と資本コストを上回る投資効果が見込まれます。

また、ご紹介したDX研修などの個別の研修費のリターンの考え方もお話しします。ライフイズテックさんの研修を通して、アプリ・RPA開発をしていくことを目標にしているので、アプリ開発による業務削減効果をベースに貢献利益を算出し、人的資本投資(研修コスト)で割りROIを算出しています。

ROIで十分回収できることから今後も積極的に人的資本投資を行っていく計画です。新規事業の創出利益を加えたいところですが、現在はまだ検討の段階ですので、今後は多くの新サービスが世の中に出ることを非常に楽しみにしています。

【パネルディスカッション】

最後に、森田氏、原田氏、関口の3名のパネルディスカッションとして、ご参加いただいた皆さまの質問にお答えいただきました。

経営層が変化したと感じたタイミング

原田氏:
DX研修を受けた直後からすごく変化を感じました。もともとDXやアプリに対して難しいと感じていた役員も多かったと思いますが、自分たちもできる、意外とアプリって身近なものだと体験できたことが大きかったと思います。正直私自身も、無意識に新入社員=未熟というメンタルモデルがあって、まずは教え込むという姿勢で彼らの可能性を制限してしまっていました。デジタルの分野では若手の可能性を引き出していくことと、アウトプットを前提としてインプットをしていかないといけないということに気がつきました。

森田氏:
リバースメンタリングセッションでは短期間で変化を感じました。普段の仕事だと上司の方が経験があるので、どうしても上から発言しまうものの、デジタルの世界ではツールを使えるのは圧倒的に新入社員で、役割分担が変わってくる。役員の持つ豊富な知見やアイディアに、新入社員の感性をプラスすれば、すごいアプリが生まれる。不思議な体験でしたが、こうやってお互いをリスペクトし合うことで良い職場になるのだと思いました。

現業もありながら社員が手を挙げた理由や、動機付けの方法

原田氏:
当社の場合、10年ほどかけて手挙げの文化を作り上げてきました。入社して最初の3年の研修は別として、それ以外の研修や外部のビジネススクールへの参加、昇進昇格も手挙げしないとできないという制度になっています。カルチャーとして根付いていると思います。

森田氏:
会社が大きくて普段は役員の方と距離があって、話すチャンスがなかなかない。そんな中でこの研修は、役員の近くで同じワークができるので、それをチャンスと感じて、手を挙げたのかなと思います。

研修の中で取り組む課題のお題の決め方

森田氏:
ライフイズテックさんが設定を考えてくれたのですが、「NEC社員のウェルビーイングをちょっとだけ上げてください」というのを共通のお題にしました。そこから先は自由だったので、「フロアの温度を均一にしたい」とか「上司のチャットが怖いので絵文字を入れないと送れないアプリにしたい」とか色々なアイデアが出て面白かったですね。フリーのお題ではなく、何か作る必要はあると思います。

研修で出来上がったアプリは継続して使い続けられるのか

原田氏:
アプリ甲子園の受賞チームについては、正式にプロジェクト化をして、定期的に社長・役員と面談をしながら事業化に向けて動いています。社内兼任という形や、グループ会社と人事部の兼任という形で取り組んでいます。業務改善系のものだと、こちらでコントロールするというよりも、皆勝手につくって自組織で活用しているような状況です。

森田氏:
役員に衝撃を与えるという意図だったので、基本はその場限りです。ただ、意外な事例もあって、食堂の予約アプリをつくったチームがあり、噂を聞きつけた食堂を管理している会社が話を聞きたいということで。当社の新入社員がアドバイザーとして参加し、管理会社側でアプリの実現化に向けた取り組みが進んでいます。

以上、NEC×丸井グループ×Life is Tech ! 「経営層が変わり 現場の変革をドライブする仕掛けとは」のイベントレポートでした。

ライフイズテックでは、すべての従業員を対象に「業務での課題解決に結びつく」学びを届けるDX研修を提供しています。プログラムはすべて双方向・実践形式で、リテラシーや意欲のばらつきを問わず新卒から経営層まですべての人材を、DX推進の主体者へと育成します。自らデジタルで課題解決できる人を組織に増やすと共に、あらゆる業務においてデジタル活用が当たり前で、ポジティブに承認・支援される組織への変革を支援します。
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