【レポート】世界も驚く教育プロジェクト!地方の課題を中高生が「IT」で解決/「Creative Hack for Local in 飯塚市、嘉麻市、桂川町」

posted on 2019/02/01

ライフイズテックは2019年1月20日、福岡県の飯塚市役所で、中高生(メンバー)が地域の課題を
ITで解決する
学びのプロジェクト「Creative Hack for Local in 飯塚市、嘉麻市、桂川町」の最終発表を行った。会場には、保護者や地元の学校・行政関係者、メディアら約50人が訪れ、注目の高さを裏付けた。

今回のレポートでは、本プロジェクトの意義や自治体担当者、メンバーの声とともに、昨年12月からの取り組みを振り返っていきたい。

本プロジェクトは、経済産業省の「未来の教室」実証事業の一環で、ライフイズテックは飯塚市、嘉麻市、桂川町の2市1町との連携を実現した。メンバーがIT技術を学ながら、地域の方からヒアリングを実施。そこで浮かび上がった課題について、IT技術で実践的に解決しようという取り組みだ。

ライフイズテックは、欧米では一般的な学習者主体の教育手法「アクティブ・ラーニング」の一つ「PBL」(Project-Based Learning=課題解決型学習=)に、テクノロジーを生かしたものづくり体験を加え、創造力を育む独自の「CPBL」(Creative Project-Based Learning)を提唱。今回が初の実践事例となった。

2018年12月~2019年1月の土日を使って計8日間、2市1町から中学1年から高校1年までの16人(男子生徒5人、女子生徒11人)が参加した。スキル的には全員がほぼ初心者だった。

16人は4人ごとに4チームに別れ、各チームでは「iPhoneアプリプログラミング」、「Webデザイン」、「グラフィックデザイン」、「映像制作」を学んだ。各チームには3人ほどのメンター(大学生講師)が付き、生徒の学習・開発をサポートした。

教育工学を専門とする九州大学の山田政寛准教授は、この手法について、「アプリやデザインなど様々なコースで一つのチームを混成し、現実の課題を解決するという仕組みがすばらしい」と語る。

昨年12月1日、2日は、通常のライフイズテックが行うITキャンプを実施。iPhoneアプリ開発の導入として活用されている「カウントアプリ」や映像編集ソフト、オリジナル名刺作りなどを通じて、各コースの基礎技術を学んだ。

同月8日は、メンバーたちが自分の地域をもっとよく知るためのバスツアーを敢行した。

筑豊の炭鉱王と呼ばれた伊藤伝右衛門が過ごした邸宅(飯塚市)、九州最大級のボルダリング施設「足白ボルダリングセンターK-WALL」(嘉麻市)、自然体験や集団学習ができる「ゆのうら体験の杜」(桂川町)を訪れた。

 

同月9日は、メンバーが各地域の課題等について、2市1町の職員2〜3人からヒアリングを行い、それに基づいて、改めて各チームで解決へ向けたテーマを企画・立案した。

年が明けて1月12、13日、具体的なプロダクトイメージを作り上げ、モックアップ(設計図)を作成したり開発・実装に集中したりした。ここでは新たに加わるメンターもいて、生徒をより一層サポート。ライフイズテックのチーフデザイナーも駆けつけた。

19日は開発とともに、最終発表のプレゼンに向けた総仕上げを行った。


そして迎えた最終日の20日。会場の飯塚市役所2階多目的ホールは、急遽、観覧席を追加するほど見学者でいっぱいに。そんな中、メンバーたちのプレゼンテーションが、14時から始まった。

トップバッターは、飯塚市担当のチーム「いきおいがだいじ!ハッピーサニーうさまる」の4人だ。

4人は、飯塚市を訪れた人の滞在時間が短いことを課題として着目。同市の観光地をもっとPRするためのアプリ「いいづかスタンプラリー」を開発した。

アプリでは「インスタ映えコース」、「歴史を感じるコース」を用意。コースにしたがって観光地にあるQRコードを読み込むと、メンバーが「Adobe Photoshop」、Adobe Illustrator」でデザインした猫やうさぎのオリジナルスタンプが押される。

アプリでは、それぞれの観光地を紹介するWebサイトや動画も楽しめる仕組みとなっている。

今後の展望としては、「グルメコース」の導入やクーポン利用なども提案。「1人1人が満足して遊べるように、飯塚の街を盛り上げていきたい」と締めくくった。

続いて、嘉麻市担当のチーム名「匿名希望」。

嘉麻市には、みちの駅「うすい」や、洋画家・織田廣喜の作品を常設展示した美術館、九州最大級のボルダリング施設といった観光地をもっと魅力的に伝えたいというテーマでスタートした。

そこで、その魅力を伝えるキャラクターに嘉麻市のゆるキャラ「かまししちゃん」を活用することを思いついた。

メンバーたちは直接、嘉麻市役所と交渉し、かまししちゃんの協力を実現させた。メンバーたちは、かまししちゃんと一緒に上記3施設を訪問し、動画を撮影。YouTubeにアップした。

さらに、かまししちゃんがそんな嘉麻市の魅力スポットを巡った動画を見ることができるアプリも開発した。具体的なアクションにもつなげようと、ふるさと納税とかまししちゃんをコラボさせたWebページも制作した。

「匿名希望」と同じく、嘉麻市への提案を担ったのはチーム名「株式会社ばやし」だ。

高齢者の健康寿命を伸ばしたいという課題について、高齢者とその親族をつなぐための健康管理アプリ「ヘルスマネージャー」を開発し、解決への糸口を図った。

このアプリを利用して、高齢者は1日3回の朝昼夜、健康に関するアンケートに回答。結果はメールで親族に送られ、アンケートの回答から高齢者の健康を把握することができる。高齢者自身も毎日自分の健康に意識を向けることができ、一石二鳥のアプリとなっている。

メンバーは、健康には「豊かなコミュニケーション」が大切だと捉え、「ヘルスマネージャー」がそのきっかけになってほしいとの思いがあった。そのため、アプリでは、かまししちゃんが家族にメールを届けているようなユニークな演出も加えた。

今後について、「利用者増によるビックデータの利用や保健師からのアドバイスも表示できるような仕組み」を提案し、「人と人とがつながる街を目指す」ことを強調した。

トリを飾るのは、桂川町担当のチーム名「あたりめ」だ。

メンバーは桂川町が全国に誇る「王塚古墳」に着目した。

「王塚古墳」は、「高松塚古墳」、「キトラ古墳」と並ぶ日本三大装飾古墳の一つにも関わらず、知名度は他の古墳に比べて低い。

そこでメンバーは、この地元の誇る古墳から「王」の文字を取り、「I’m King」とテーマを設定。古墳内に、王様が眠る場所や広いベッドや星空のような天井があることから 、「王塚古墳」をホテルに見立ててPRすることとした。

映像では、メンターが古代人に扮し、現代の「王塚リゾートホテル」に宿泊しに行くというストーリーだ。ネット上で動画が見られることを想定し、最初の数秒で惹きつけるインパクトにこだわった。

Webページでも、王塚古墳が「創業1500年のホテル」というユニークな設定。「王様」しか宿泊できないため、本当に「王様」かどうかをチェックするクイズアプリも開発した。

クイズアプリに正解すると「王様」のライセンスが与えられ、さらに「AR」(拡張現実)というIT技術を使ってスマートフォンをかざすと古代人を見ることができるようにした。

 

来場者を含め、各チームがお互いの作品を体験し合った後、最終発表を聞いた3自治体の担当者からもメンバーに向けた講評があり、驚きの声が上がった。

桂川町社会教育課の松尾亮一さん
「どれも発想がすばらしい。王塚古墳の動画を見て、どこのホテルのPRかと思いました。他のチームでも桂川町バージョンを作ってもらいたいぐらいです(笑)」

飯塚市商工観光課の大庭敏一さん
「ぜひこのアプリを飯塚市としても活用したいなぁと思っています。今回、3チームが観光、1チームが健康をテーマにしてくれて、その発想力と行動力に感謝したいです」

嘉麻市健康課の石松香織さん
「想像以上の出来栄えで、とても驚きました。どのチームも地域の課題に密着して解決策を考えてくれた。若い人の柔らかい頭で開発してくれたのは大変良かったと思います。嘉麻市バージョンのスタンプラリーも作ってほしい(笑)また、ヘルスマネジャーは、一人暮らしの高齢者の見守りにも活用できる。市役所の担当課にも報告したい」

昨年12月から続いた取り組みも、メンターからメンバーへ本プロジェクトを達成した「個別認定式」が行われると、いよいよ終盤に。

最後に本プロジェクトのディレクションをリードし、MCを務めたライフイズテック取締役の讃井康智がメンバーに向け、語りかけた。

「日本だけでなく、世界でも見たことがないようなことをそれぞれのチームで成し遂げてくれたと思っています。チームに違うコースのメンバーが集まり、地域の課題をメンターと一緒に解決するということは、ライフイズテックとしても初めてのことでした。全員にとって挑戦でした。世界を驚かせるような取り組みを形にしてくれたことを、本当に嬉しく思っています」

会場からは大きな拍手が上がり、昨年12月から8日間にわたって行われた「Creative Hack for Local in 飯塚市、嘉麻市、桂川町」を終えた。メンバーには、ライフイズテックから8日間の様子を振り返ったDVDとオリジナルステッカーが贈られた。

最終発表を最後まで聞いていた九州大学の山田准教授からは、ライフイズテックに「中高生と大学生がチームとなり、現実の地域課題を解決していくという世界でも類を見ない教育実践だった。国際学会でもぜひ発表してもらいたい」との嬉しい言葉が送られてきた。

改めてメンバー、メンターで作り上げた「Creative Hack for Local in 飯塚市、嘉麻市、桂川町」の取り組みの意義と成果、そして新規性が示されたかたちとなった。

最後に、メンバーの声を紹介して、今回のレポートを締めたい。

チーム「あたりめ」の男子生徒(中学2年、映像制作コース)は、中学1年の時から趣味でアニメ映像の編集を始めた。

ライフイズテックの体験会に参加し、ゲームプログラミングやWebデザインを学んだことがり、「世界が広がる」ことを実感。今回の参加につながった。

「自分の住む街のPRという大きなテーマだったが、自分の故郷が好きなので、全て楽しかった。将来はプログラミンを含めたITに携わる仕事につきたい」と語った。

チーム「匿名希望」の女子生徒(中学1年、iPhoneアプリプログラミングコース)は昨夏、ライフイズテックの体験会に参加していたが、「8日間」という長期日程でIT・プログラミングを学びたいと思い、応募した。

女子生徒は将来は心理学を学びたいと思っており、「心理学という学問にこうしたITを融合させられたら」と期待に胸を膨らませた。

一方、チーム「株式会社ばやし」の男子生徒(中学1年、グラフィックデザインコース)は「作品を作り上げるのは大変だったけど、色々コミュニケーションする中で、日本語や国語の勉強にもなった気がします」。同チームの男子生徒(中学1年、iPhoneアプリプログラミングコース)は「今回のプロジェクトを通して、学校の授業でも積極的に手を挙げられるようになった」と自身の変化を語った。

チーム「いきおいがだいじ!ハッピーサニーうさまる」の女子生徒(中学1年、iPhoneアプリプログラミングコース)は、「これまで自分の街を歩いていても、特に何も感じることはなかったが、自分ならこうした方がもっと街を盛り上げられるのではないかと考えながら歩くようになった」と住んでいる街に対し、見方が変わったと話していた。

 

ライター:宮本俊一
プロフィール:1981年、群馬県生まれ。2006年、読売新聞東京本社入社。記者職を中心に歩む。子どもの未来に繋がる仕事がしたいと2018年11月、Life is Tech! に転職。仕事の傍ら2013年からエッセーを書き、「第18回約束(プロミス)エッセー大賞」(産経新聞社主催)などで入賞。「誰にでも分かりやすく」をモットーに、旬な話題を随時アップします!