中央展最優秀賞を受賞した望月さんの「絵をずっと好きでいたい」気持ちが生んだ新しい選択。

posted on 2017/11/27

「自由だから、グラデーションを描くのが好きです」——そう話すのは、はにかみ屋さんで自分でも緊張しいだという望月海希さん、高校3年生。第27回中央展東京都高等学校文化祭美術・工芸部門で、東京都教育委員会賞(最優秀賞)を受賞されました。

 

夏の暑い日、受験勉強の忙しい合間を縫ってインタビューに答えてくれた彼女。美術部を引退した今もときどき息抜きで絵を描いているそうで、紺色の靴下には白い絵の具がついていました。

 

そのときに関心のある人間社会やテーマ性のある題材を選ぶ

最優秀賞を受賞した「耀う夜明けを夢見るか」

 

—最優秀賞おめでとうございます。受賞されたときのお気持ちはいかがでしたか?

 

「ありがとうございます。ただただびっくりしました。今まで応募の経験もあまりありませんでしたし、自信はなかったので受賞できないと思っていました。受賞を知ったときは、がんばってきたので嬉しかったです」

 

—夕日とスラム街を題材にしているそうで。この絵を描いたきっかけは?

 

「学校帰りに自宅の近くでたまたま見た夕日がとてもきれいで、この景色を描きたいと思ったのがきっかけです。夕日の周りには、かつてテレビのドキュメンタリー番組で見たスラム街を組み合わせました」

 

—スラム街を描いた理由はなぜでしょう?

 

「スラム街はもともと街の雰囲気に興味を持っていたんです。日本には絶対にない、生きている感じが好きで。日本だと自分が住んでいるご近所の方のことをあまり知りませんが、スラム街は隣人や人との繋がりを感じて、そこに魅力を感じます」

 

—海希さんの作品の特徴は、ご自分ではどういうところだと思いますか?

 

「そのときに関心を持っていた社会問題やテーマ性のあるものを、選んで描いているところです。絵を通してあるメッセージを伝えたいというよりも、ただ自分の興味があることを描きたいと思っています。

 

あとはグラデーションの空を描くのが好きです。自由に、何の色を付けるのもアリなところに惹かれます。また、汚れや年季の入ったものの質感を出すのも好きです。自分の性格は細かくて几帳面なので、絵も細かく描いちゃいますね(笑)」

 

大きなパネルに描かれた銃とグラデーションの空が印象的な望月さんの作品

 

真似をしながらずっと描き続け、漫画家に憧れた時期も

 

—絵を描くことはどういうところが好きですか?

 

「自分の好きなように作れて、目に見えない音楽と違って絵は形になるところが好きです。それにもともと団体競技が苦手で。絵なら絶対に個人競技じゃないですか(笑)」

 

—昔から絵を描いていたのですか?

 

「手当たり次第、チラシの裏などに漫画や、なぜか形が好きでよくメロンを描いていましたね。あと小学校5、6年生では少女漫画のキャラを模写して描いていました。休み時間に絵を描いていると周りに人が集まってきて注目されたり。ものごころがついたときから、ずっと描いていたこともあって、絵の成績はよかったです」

 

 

—中学生のときも美術部?

 

「はい。中学校の美術部では漫画を描いてもよかったので、主にギャグ漫画を描いていました。当時は漫画家の真嶋ヒロさんが好きで、よく真似をしていました」

 

—漫画家にはなりたいとは思わなかったのですか?

 

「漫画家になることは憧れてはいたんですが、なれる自信はなかったです。無理だというよりも、もっと現実を見ましょうという雰囲気が周りにあって。漫画家を目指すことはありませんでした」

 

高校からは、美術部として学校行事に参加する機会が増えた

 

—中学と高校の美術部で違いはありますか?

 

「中学生まではほとんど漫画を描いていたのですが高校に入ってからは、油絵やアクリル画に取り組むことがメインで、描く素材自体が中学校とは全く違いました。

 

活動は週4日間で、全部員を合わせると13人ほど。みんなで仲よくおしゃべりをしながら描いています。部の雰囲気自体は、上下関係があまりなくてフランクで、中学の頃と変わりません。スプラトゥーンなどのゲームや面白い先生、たまに恋愛やイケメンなどの話をしています(笑)」

 

—高校は生徒主体の学校行事が多い分、美術部として関わることが増えそうですよね。

 

「そうですね。高校に入ってからは作品を人に見てもらう機会も増えたと思います」

 

—美術部はどんな作品を制作するんですか?

 

「毎年夏休みには合宿があり、東京の青梅市で3泊4日して、秋の文化祭で展示するための風景画を1人1枚描きます。 それ以外にも、部でお揃いのTシャツをつくったり。

5月の体育祭ではみんなで、畳2畳分ほどの旗に『九尾の狐』という妖怪を描きました」

 

望月さんが描いた文化祭のポスター

 

絵の道と研究者の道。受賞後に気持ちがかなり揺れ動いた

 

—美術部と勉強の両立で悩むことはありませんでしたか?

 

「勉強面はずっと悩んでいました。今まであまり勉強をしてきませんでしたし、周りがとても優秀なので負い目も感じます。一瞬、美術部をやめようかと思ったこともありましたが、絵を描くことはとても大切なことなので、やはりそれはできなくて続けました」

 

—これから受験だそうですが、進路はどういう方面に進みますか?

 

「今は遺伝子に興味を持っていて、そういう分野の大学へ行きたいです。将来は遺伝子や人体関係の研究者になりたいと思っています」

 

—美術関係に進まないのですね。

 

「今回の絵を受賞したタイミングが12月の進路を決めなくてはいけない時期だったので・・・かなり迷いました。冬休み中の1ヶ月間、絵と生物学の間でずっと行き来して揺れていたんですけど、悩んだ末に生物の道へ進む決心をしました」

 

—それはどのような理由があったのでしょう?

 

「絵を仕事にすると嫌いになりそうっと思ったからです。嫌いにはなりたくない、それだけは避けたいと思って絵の道へ進むことはやめました」

 

—では大学に入ってからはどのように絵を続けますか?

 

「あまりSNSのことは知らないんですけど、大学に入ったら趣味として描いた絵をソーシャルで発信したいです。

 

インスタグラムはちょっと自分の指向性と合わないのでやっていませんが、Twitterなら今でも鍵アカ(鍵をかけた非公開アカウント)で気晴らしにちょっとだけ絵の投稿をしていますし、大学へ入ってからもそれは続けたいです。作品を見た知らない方からコメントで「綺麗ですね」「かっこいいですね」などと言われるのが嬉しいんです」

 

 

「初対面は苦手」という彼女は、恋愛の話になると顔を赤らめながらも、自分自身に嘘をつかないようとても丁寧に言葉を選んで答えてくれました。生物と社会問題と絵、一見相容れない興味にも思えますが、人に伝えるのが苦手という彼女は、絵や遺伝子など確実に実存し伝わるものに関心があるようにも思えました。