Unityインターハイで優勝した西村さんは、「人に楽しんでもらうこと」が最高に面白い
ゲーム開発の全国大会「Unityインターハイ」で優勝、「アプリ甲子園」で準優勝と、飛ぶ鳥落とす勢いの高校2年生、西村太雅さん。
精悍な雰囲気をまとい、とても理路整然とした話し方をする彼。意外なことに、ゲームはあまりやらないそう。
「頭の中のイメージが際限なく実現できることが楽しい」をきっかけにゲーム作りを始め、次第に「ゲームを人に楽しんでもらう喜び」を知っていきます。そんな西村さんの頭の中を少し覗いてみたくて、いろいろ聞いてみました。
睡眠は1日4時間、寝食を忘れて没頭したゲームで「Unityインターハイ」優勝
「Unityインターハイ2016」を優勝した作品 『Isolated Area』
—「Unityインターハイ2016」優勝おめでとうございます!
「ありがとうございます」
—どういうゲームを作ったのですか?
「『Isolated Area』というPC向けの3Dホラー・アドベンチャーゲームを作りました」
—ホラーゲームなんですね。どのようなが特徴があるのでしょう?
「ホラーゲームは恐怖感を演出するために、計算して随所に仕掛けや演出を入れています。たとえばオープニングは地上の明るいシーンから入り、エレベーターに乗るといきなり停電します。真っ暗にすることで明暗のギャップで恐怖感を演出するとともに、これはホラーゲームであることをユーザーに分からせる仕掛けです」
地上から地下へと降りるエレベーターに乗ると、一瞬にして雰囲気が変わりホラーの演出がはじまる『Isolated Area』
—隅々まで設計が考えられていますね。制作期間はどれくらいですか?
「期間は約4ヶ月間、企画を含めると半年はかかっています。全て1人だけでやりましたから、時間はかかりました。睡眠時間は1日4時間ほどで、学校と塾の合間をぬって、寝食を忘れて没頭しました」
—それは大変ですね……。大会に出場しようと思ったきっかけは?
「もともと趣味でゲームを作っていましたが、せっかくなら試しに大会に出してみようと思いました。自信はなく、賞を取れたらいいなという程度でしたが、結果は優勝でした」
—受賞後の周りの方の反応はどうでしたか?
「自分からは言ってなかったので、誰も知らないと思っていました。ところが学校へ行くと、友達が『おめでとう!』と受賞のことを知っていて。なぜだと思ったらTwitterで知ったそうです。
普段話さない生徒から『面白かった』と声をかけられたり、先生から「君、賞を取ったんだって?」と話しかけられたりして、校内の全員が知っているような状態でした」
『Isolated Area』はPCカメラへQRカードをかざし、ゲームを攻略するという仕掛けも
「制限なく、世界にひとつだけのものを作れる」と思ったのがきっかけ
—ゲーム作りを始めるきっかけは、ゲームをしていたから?
「実はゲーム機で遊ぶことは、そんなにやってきていないんです。マリオくらいです。
ほとんど昔も今もパソコンをいじってばかりで。
小さい頃はマシンをいじり、ものを作るのが好きでした。幼稚園生の頃からPCでかんたんなゲームをやり始め、小学生のときは工作用紙で戦艦やメカを作っていました。ゲーム作りはその延長だと思っています」
—プログラミングはいつから始めたのですか?
「プログラミングは中学2年生の夏から。親に勧められてITキャンプスクール『ライフイズテック』へ行ってみたのが始めです。
ゲーム制作ならば自分がデザインしたキャラクター、考えたストーリー、世界観など、世界にひとつだけのものを作れると思い、中学2年生の秋から本格的に作り始めました。それ以降、今まで6作品ほどゲームを作っています」
アプリ甲子園2016年に準優勝した西村さんの作品「Which is the Floor? 」
初めて「2人で協力すればよりいいものが作れるのでは」と思った
『Isolated Area』
—今もゲームは作っていますか?
「はい、去年の冬から始めています。作っているのは、宇宙空間で生き残るゲームです。ビジュアルは昨年よりも格段に進化し、よりプレーヤーが没入できるように演出を設計しています。
今までは、自分の世界観の実現を重視して1人にこだわっていましたが、今回初めて高校の友人と2人でチームを組みました」
—どうして2人で作ろうと思ったのですか?
「彼は1年生のときのクラスメイトで仲が良く、今でもゲーム作りの話をよくします。ゲーマータイプでゲームを知り尽くしていて。僕が作ったものにアドバイスをくれていますし、始めからとても馬が合いました。だから二人で協力すればいいものが作れるのではと思ったのです」
—そのお友達も以前からゲーム作りをしていたの?
「いえ、全くの未経験者でした。でも僕のゲームに興味を持ってくれていたので「やってみない?」と声をかけたら引き受けてくれました。僕はモデリング(ゲーム内のモデル=模型作り)が得意じゃなかったですし、彼ならきっと得意だろうと思い担当してもらったんです。
最初は、どのレベルまでモデリングをできるのか心配でしたが、始めたら要領よくすぐに理解してくれて。おかげでさらにゲームのクオリティをレベルアップできました」
受験生の葛藤はある。でもとっておきの娯楽はやめない
—今は受験生だと思いますが、ゲームを作ることに対して葛藤は感じますか?
「そうですね。今は、忙しくて時間がないのが悩みです。『ゲーム作りをすることが何になるんだ』と悲観的になったり、葛藤したりすることはもちろんあります」
—西村さんがそれでもゲームを作り続ける動機はなんでしょうか?
「誰かがプレイしているときが一番嬉しいから、につきますね。作っている最中は、正直それが面白いのかどうか全くわかりません。クラスの友達などにプレイしてもらって、もっとこうした方がいいなどとアドバイスを受けながら作ります。
さらに、作品を大会に出せばみんながプレイしてくれ、友達も興味を持ってくれます。アプリストアからダウンロードして目の前でプレイしてくれるのが、すごく嬉しいです。
中にはyoutubeで僕のゲーム実況をしてくれる人もいます。ホラーゲームの、怖がらせる仕掛けをしたところで見事に悲鳴をあげてくれると、すごく面白い(笑)。それがモチベーションになっています」
—そのままいくと、将来はゲーム関連の企業へ?
「僕にとってゲーム作りはとっておきの娯楽なんです。仕事にしたら好きではなくなってしまう懸念があるので、将来ゲーム関係へ進む道は考えていません。ゲーム作りはあくまで趣味にとどめ、この能力を他のことに活かして人助けができればと思っています。」
インタビューのあと、西村さん作のホラーゲームをネットでやってみました。面白かったです。もちろん市販のゲームと比べれば足りない部分もありますが、細かなゲーム説明や演出で、スムーズにゲーム世界へいざなわれ、没入していきました。まるで西村さんがすぐそばで、『どうです?』とニヤリとしているような、微に入り細に入り、サービス精神が行き届いた演出で、思わず楽しまされました。