なぜ大渕くんはたった2ヶ月でアプリ甲子園に入賞できたの?
高校1年の夏休みからプロミングを始めて約2ヶ月で、アプリ甲子園で第3位に。翌年のアプリ甲子園では、見事優勝を果たした、開成高校3年の大渕雄生(おおぶちゆうき)くん。
「ただの天才でしょ?」なんて思う人もいるかもしれないけど、ちょっとそのひと言で片付けて欲しくないんです。「めちゃくちゃ努力した!」も半分正解だけど、少しニュアンスが違う…。
今回は大渕雄生くんにライフイズテックまで来てもらって独占インタビュー。なんで大渕くんがアプリ甲子園に優勝するまでに至ったのか、その秘密に少しでも迫っていきたいと思います。
プログラミングならすべて自由に作ることができる
—こんにちは! まずは大渕くんの生い立ちについて教えてください。
「小学4年までは日本にいて、小学5年から中学卒業までは香港にいました。小学生の頃から工作が好きで、粗大ごみ置き場からガラクタを持って帰ってきては、組み合わせていろいろと作っていました。ガラケーの中に入っていた装置と歯ブラシを組み合わせて、振動で進むおもちゃを作ったり。とにかく作ることが好きでした。
でも高校に入学をするまではプログラミングの経験はまったくなくて、スマホも持っていなかったほどです」
—プログラミングをはじめたきっかけは?
「日本の高校に入学したときに、お祝いで父親からMacをもらいました。『サマーウォーズ』や『エヴァンゲリオン』に登場するプログラミングのシーンに憧れていたので、漠然とやってみたいと思ったんです。
当時マインクラフトが好きだったのですが、マインクラフトだと制限があるけれど、プログラミングならすべて自由に作ることができる。そこに魅力を感じました。
プログラミング関連の本をたくさん買い込んで独学で勉強しながら、分からないところだけ、オンラインのプログラミング家庭教師サービスで質問していました。本の通りにプログラムを書いているのに、まったくプログラムが動かないなんてことも日常茶飯事で、最初は苦労しましたね。
目標がある方が頑張れると思ったので、アプリ甲子園に応募することにしたのですが、その当時はパソコンのキーボードを人差し指で叩いているようなレベルだったので、一次審査さえ通るとは思っていなくて……」
電車の中でもパソコンを開く、プログラミング生活
—プログラミングを始めてから、一次審査の締め切りまで1ヶ月しかなかったんですよね?
「ちょうど1ヶ月ぐらいでしたね。一次審査までの期間は夏休みだったので、朝7時から夜12時まで、ご飯とお風呂の時間を除いてずっとプログラムを書いていました。もともとなにかに熱中すると、一日中やり続けてしまうタイプなので。
シューティングゲームの弾幕ステージを自分で作れるというアプリだったのですが、未完成の部分はありつつ、なんとか1次審査に間に合わせることができました。
一次審査を通過してから決勝までは一ヶ月半ほど期間があったので、ステージを追加したり、作ったゲームを共有できる機能を追加したりと、いろいろと勉強しながらサービスをブラッシュアップしていました。
その期間は学校もあったのですが、授業が終わると物理部でプログラムを書いて、帰りの電車の中でもパソコンを開いてと、とにかくプログラミング中心の生活でした。勉強をほとんどせずにプログラミングばかりしていたので、ちょっと成績がすごいことに(笑)」
—そして見事3位に。
「自分としては、まだやれることがたくさんあるのにという状態でしたが、審査員の方から『作る楽しさを広めようというのは面白い』と言っていただいて。アイデアの部分を評価していただいたようです」
技術が足りなくなっても、後からなんとかなる
高校2年時に大渕くんがアプリ甲子園で優勝した作品「find family」。認知症の方のための介護サポートツールで、靴を履いてもらうと、GPSで位置情報がわかり、またアプリから操作して靴を光らせることができます。
—そして翌年のアプリ甲子園では、『Find family』で見事リベンジ。優勝を果たしたわけですよね。
「祖母が認知症になった曽祖父を介護しているのを見て、なんとか助けられないかと思いました。靴にGPSを埋め込んで、アプリで位置情報を表示するという断片的なサービスイメージから始まって、祖母ともアイデアを出し合い、靴を光らせる機能などを追加しました」
—今度はゲームとはまた違う技術が必要になるIoT*です。
*IoT … 「モノ」をインターネットにつなげて制御する仕組みのこと。
「確かにまったく新しいプログラミング言語や技術をイチから習得していくことにはなったのですが、僕は『これを作りたい』と目標を定めたら、技術が足りなくても後からなんとかなるだろうと考えるタイプなので。
IoTをやろうと決めた後に、そこからサーバーを管理するための言語やハード(Find familyの場合、アプリで制御する光る靴)を管理するための言語を新しく勉強しました。
スマホアプリの部分はプログラムを書けば、命令通りに動いてくれるのですが、ハードの開発はそうもいかなくて。電圧が低くて回路が動いていないとか、断線していたりとか、全然違う難しさがありましたね」
手を動かしていると、アイデアが浮かんでくる
—大渕くんはサービスやアプリをつくるとき、どんな手順を踏みますか? まず仕様書や設計図を書く?
「まったく書かないです。まずは実際に手を動かして作ってみて、あとから足りない部分を継ぎ足していきます。
ときどき、基幹になる部分を書き換えなくてはならなくなるときもありますし、最初からきちんと順序立てて開発していけば、そんなことにはならないとは思います。
でも作っている最中にどんどんと機能を思いついたり、やっぱりこっちの方が使い勝手がいいとか、いろいろとアイデアがでるんです」
—初めから完璧なものを目指すというよりは、まずは形にすることが大事?
「そうですね。アプリ甲子園にしても、一次審査の段階ではまずは形になっていればという感じで。そこから徐々にブラッシュアップしていきました。
アプリ甲子園でこれまでに会った人たちは2年、3年かけてアプリを作ったという人が多かったので、1ヶ月で作るというのはちょっと特殊かもしれないですが(笑)」
夢は大学でAI(人工知能)の研究
—お話を伺っていると、365日プログラミングしているようですね。
「アプリ甲子園以外にもサービスを作ったり、祖母のためにホームページを作ったり、いろいろと手を出しています。あと、プログラミングしていないときも、プログラムのことを考えていますね。」
—大学受験は大丈夫?
「ちょっとまずいんですよね。赤点が9科目ぐらい(笑)。でも進級はできましたし、たぶん大丈夫だと思います」
—今、高校3年生ですが、進路についてはどう考えてるの?
「大学に行って、AI(人工知能)の研究をしたいです。サービスやアプリは自分でも作れるけれど、研究となるとやっぱり断然大学が強いので。ただ自分でサービスを作るのもやっぱりやりたいので、大学で研究したAIを自分のサービスに組み込んだりできたら、すごく楽しいですね」
今後作ってみたいサービスは?という質問に答えてくれた大渕くん。壁掛けのディスプレイで家族のスケジュールが共有できるIoTカレンダー。嬉しそうに話す大渕くんが印象的でした。