地元・鯖江のメガネを守りたい。福井在住の女子高生が、ゲーム開発で地域の課題を解決

posted on 2022/12/27

Life is Tech ! Schoolでは年に2回、受講している生徒の皆さんを対象にした「スクールカップ」という大会を開催しています。

その2022年春の大会で、208作品ものエントリーの中から見事優勝したのが、『目指せ!鯖江のめがね職人!』を制作したオンライン金曜スクール生の村上実梨(むらかみ・みのり)さんです。

みのりさんは福井県在住で、通信制の高校に通う3年生。2022年春の大会のお題「ものづくりを促進したい」に対して、地元の名産である「鯖江めがね」をテーマにし、ゲームを制作しました。ゲームづくりはなんと今回が初挑戦。


スクールカップとは?
Life is Tech ! Schoolで学んだ技術を使って課題を解決する、というミッションのもと、メンバー一人ひとりが作品を制作。技術力や企画力、デザイン力など総合的な観点で優秀作品を決定します。
https://life-is-tech.com/school/

 

実は、中学生の頃から鯖江のめがねについて調査していたというみのりさん。その頃のご縁で知り合った現地の職人さんの意見も、今回のゲームに反映されているのだとか。

「鯖江市のめがね作りをより多くの人に知ってもらいたい」という思いで初のゲーム制作に挑戦したみのりさんに、『目指せ!鯖江のめがね職人!』の開発エピソードや、ゲーム作りに出会ってからの変化、今後の目標についてお話を伺っていきます。

将来に役立つことを学びたかった

ーー現在、みのりさんはライフイズテックのオンラインスクールに通っていますが、もともとゲーム制作に興味があったんですか?

ゲーム制作というよりも、プログラミングに興味がありました。小学生の頃から、県内の大学や有志の方が開催しているプログラミング体験教室に数回参加していました。生きていく上で、将来的にプログラミングが重要になっていくというのは両親から教わっていたので、なんとなく早いうちからやっておいた方がいいのかなという感覚でしたね。

 

ーーかなり早い段階から将来について考えていたんですね。ライフイズテックを知ったのはどんなきっかけで?

父が見つけてきて、教えてくれたのがきっかけでした。実は、学校の勉強よりももっと将来に役立つことをやりたいという思いがあって、高校1年生のときに通信制の高校に転校したんです。そこでアルバイトや塾、オンライン英会話など新しいことにいろいろチャレンジしてみたのですが、自分が将来何を目指しているのかがわからなくなってしまって。

すごく落ち込んでいたときに、父からライフイズテックの話を聞きました。もともとパソコンを使うことが好きで、イラストを描いたり動画を観たりしていて操作には慣れていましたし、幼い頃から関心のあったプログラミングをきちんと学びたいと思って始めることにしました。

 

ーーなるほど。みのりさんとしては、まずはプログラミングを学びたいという思いが一番大きかったと思うのですが、ゲーム作りを始めたのはいつ頃からですか?

最初はライフイズテックのプログラミングの教科書を使いながら学んでいましたが、1か月ほど経った頃にオリジナルゲームを作ってみることになったんです。そこで、今回の鯖江のめがねをテーマにした作品の構想を考えていきました。

ゲームを通して、地元のめがね産業を守りたい

ーーではさっそく今回制作した『目指せ!鯖江のめがね職人!』についてお話を伺っていきたいのですが、これはどんなゲームですか?

この『目指せ!鯖江のめがね職人!』は、福井県鯖江市の名産である「鯖江めがね」がどのように作られているのかを体験できるゲームです。実際のめがね制作に必要な工程のうち、主な6つの工程をステージにして、それぞれ時間制限内にクリアしていきます。鯖江の職人の方々が、ひとつのめがねを作るのにどのくらいの手間をかけているのかを感じてもらえるようなゲームにしました。

▲ステージごとに工場が分かれているのは、鯖江市の産業の課題である分業体制を表現しているのだそう。

ーーめがね作りを体験するというアイデアが新しいなと感じました。そもそも鯖江のめがねに着目したきっかけは?

一番最初のきっかけは、中学校の授業ですね。わたしが通っていた中学には、生徒一人ひとりが福井県に関するテーマを自由に設定し、3年間かけて調査を重ねながら最終的に論文を書くという授業があったんです。そこで​​鯖江のめがねをテーマに選びました。中学1年の頃は自分自身もめがねをかけていましたし、地元でも有名な特産品だったので興味があって。

そこから調査の一環で実際に職人の方にインタビューしていくうちに、やはり最近は海外からの安価な輸入品がかなり増えていて、このままでは鯖江市がめがねの産地として成り立たなくなってしまうという状況を知りました。

そこで解決方法の一つとして、鯖江市に実際に訪れてめがねに関する体験をしてもらうことで、愛着が湧いて買ってもらえるのではないかと考えたんです。この中学3年生のときのアイデアが、今回のゲーム作りのベースになっています。

ーーアイデアの原点は、中学の頃の経験にあったんですね。でも中学卒業から時間も経っていたなかで、改めて鯖江のめがねを取り上げてゲームにしようと思ったのはなぜ?

せっかくオリジナルゲームを作るなら、今までにないものにしたいという気持ちがあって、考えるうちにふと、鯖江のめがねのことを思い出したんです。

中学3年生当時は観光と結びつけることを考えていましたが、そもそもアクセスしづらい上に、コロナ禍で実際に鯖江市まで来てもらうことが難しい状況。さらに高価格の鯖江のめがねを納得して買ってもらうためには、まず職人の方々がどれだけ手間暇をかけて作っているのかを体感してもらうことが必要だと感じました。

そこで、その制作工程をゲームにすれば、遠くにいる方でも手軽に体験してもらえるのではないかと思ったんです。まずはゲームを通して鯖江のめがねに興味を持ってもらい、そこから実際に体験するために鯖江市に訪れて、最終的にめがねを購入してもらうという流れができれば、産業を発展させることができるかもしれないなって。

リアルさにこだわって取り入れた、めがね職人の方の声

ーーたしかに、ゲームであれば誰でも気軽にプレイできるし、最初のきっかけをつくる手段としてすごくいいですね。今回みのりさんにとっては初のゲーム作りでしたが、実際にやってみてどうでしたか?

最初はわからないことだらけでしたし、エラーやバグがどんどん出てくるのでとにかくメンターさんに相談しながら、一つひとつ解決していきました。プレイヤーにとってよりわかりやすくするために、途中でUIをがらりと変更したのですが、その作業が大変でしたね。でも振り返ってみると、全体を通してすごく楽しかったです。

 

ーーゲームを作る上で特にこだわったポイントはありますか?

ひとつは、鯖江市のめがね職人さんにゲームのステージや操作方法についてアドバイスをいただきながら作ったことです。中学2年生のときにインタビューで伺った工房「プラスジャック」の社長さんにご意見をいただき、ゲームに反映させたことで、めがね職人さんが実際に工場で制作している動きをよりリアルに体験できるゲームになったと思っています。

▲ステージ1の「内側削り」の工程。時間制限内にボタンを操作してめがねの内側を削っていく。これが結構難しい。

ーー実際にプレイしてみましたが、一つひとつの工程がリアルで驚きました。

嬉しいです。もうひとつは、背景やキャラクター、3Dモデル、めがねなどゲームに使う素材をほぼひとりで作成したことですね。そうすることで、ゲーム内に統一感が出たと思います。

せっかくならフリー素材を使わずに自分で全部作ってみたいという思いがあったので、YouTubeの初心者向けの動画や本で勉強しながら進めていきました。ゲーム内の3Dキャラクターやオブジェクトも、何度も繰り返しモデリングして得た知識や技術を使って完成させています。人体モデルは全部で4体作りましたが、ゲームの雰囲気に合うキャラクターができてよかったです……!

ーーみのりさんはこのゲームでスクールカップの優勝を果たしたわけですが、ゲームの制作に協力していただいた鯖江市のめがね工房の社長さんも、喜んでくださったのでは……?

はい。優勝したことも報告しましたし、ゲーム自体もすごく気に入ってくださって。社長さんが開催しているめがねのお祭りのゲームコーナーで、この『目指せ!鯖江のめがね職人!』のゲームを設置していただこともありました。

以前はただ有名という認識しかなかった鯖江めがねも、実際に現地の職人の方々からお話を聞いたり、こうして作る工程をゲームにしたりすることで、他と比べていかに技術が高いのかを改めて知ることができましたし、めがね以外にもさまざまな事業をされているのを見て、めがね会社さんのこの先の未来に触れられてすごくよかったなと思います。

ゲーム作りに出会って、毎日が楽しくなった。

ーー中学3年間の調査に加え、ゲーム制作を通して地域へのより深い理解に繋がったんですね。ライフイズテックやゲーム作りと出会って、みのりさんの中で何か新しい気づきや変化はありましたか?

ゲームを作るのに必要な要素は、プログラミングだけではないことに改めて気づかされましたね。イラストや3D、UIのデザインも重要ですし、自分の好みだけでなく使うユーザーの視点に立って一つひとつの要素を作っていくことの大切さを学びました。

それと同時に、自分に自信がついたのが一番嬉しいことだなと思います。ライフイズテックに出会うまでは、将来どうしたらいいのか全然わからなくて、一日一日をただやり過ごしているという感覚だったけれど、今は自分を認めてもらえる場がありますし、作品の制作に取り組むことで毎日がすごく楽しくなりました。

 

ーー「毎日が楽しくなった」って、すごく素敵ですね。そんなみのりさんの次の目標を教えてください。

まずは、今作っている新しいゲームをより高いクオリティで完成させることですね。今はまだメンターさんの力をお借りしている状態なので、将来的には3Dのオリジナルゲームをひとりで制作できるようになるのが目標です。大学でもゲーム制作は続けていくので、ゲームプログラミングや3DCGの分野にも力を入れて勉強していきたいなと思っています。

もちろん今回の鯖江のめがねのように、ゲームで地域課題を解決するということもやっていきたいですね。今まであまり事例がなかったと思うのですが、ゲームだったら楽しみながら課題解決できますし、すごく可能性を感じています。

ーーでは最後になりますが、これからゲームを作りたいと思ってる同世代の中高生に向けて、ぜひアドバイスをお願いします。

少しでも迷う気持ちがあるなら、一度手を動かしてやってみることが大切だと思います。わたしも、実際に始める前は勝手にすごく難しいんじゃないかと思っていました。特に3Dなんて全然わからなかったけれど、いざやってみると意外とできちゃうし、すごく楽しいんですよ。

もちろん作品が完成すれば達成感もありますし、自分に自信がつくのが一番大きいポイントだなと思います。「やってみたい」と思う気持ちを大事にして、ぜひ実際に手を動かしてみてほしいですね。

取材を終えて

みのりさんのお話を聞いていて特に印象的だったのが、恐れずに新しいことに挑戦し続ける姿勢。一度やると決めたらさまざまな手段を使って学び、確実に自分の力にしていくみのりさんの姿はすごく頼もしく、輝いて見えました。

誰でもやったことがないことを前にすると、どうしても臆病になってしまうもの。でも、「きっとできない」と自分で自分の可能性を狭めてしまうのではなく、思い切って一歩踏み出してみれば新しい景色が見えるのかもしれません。

また、福井県にいながらやりたいことを実現させているみのりさんを見ると、デジタルを学ぶことに都心も地方も関係なく、可能性は誰にでも開かれているのだと改めて感じました。少しでも興味のある方は、ぜひ一歩踏み出していただけたらと思います!

ライフイズテックの公式noteでは今後も、好きを追求しながらデジタル領域で活動している個性的な先輩を紹介していきます。どうぞお楽しみに◎

取材・文 むらやまあき

▼みのりさんの作った『目指せ!鯖江のめがね職人!』はこちら
https://unityroom.com/games/megane_sabae