「ゲームを作れる」が自信になった。これからも“面白い”をとことん追求し続ける
2022年9月18日、日本ゲーム大賞2022「U18部門」の決勝大会が開催されました。
「U18部門」は、次世代を担うゲームクリエイター発掘を目的に設立された、18歳以下が審査・表彰対象のゲーム制作コンテスト。2018年に設立されて以来、毎年多くの才能ある若きクリエイターが集い、しのぎを削ってきました。
その大会において、今回ライフイズテックのオンラインスクール生である、“シシャモ”こと北村健(きたむら・けん)さんの『大倉庫カンパニー』が金賞を獲得しました!
https://u18.awards.cesa.or.jp/news/pressrelease20220918/
シシャモくんは現在、京都の高校に通う3年生。実は、昨年度もこの大会のファイナリストに残り、惜しくも優勝を逃すいう経験をしています。その時に審査員の方からもらったフィードバックを新たなゲーム制作に生かし、満を持して優勝を果たしました。
そこで今回は、シシャモくんに『大倉庫カンパニー』の開発のエピソードや、ゲーム作りに出会ってからの変化、作り手になることの面白さについてオンラインで取材。その様子をnoteでお届けしていきたいと思います。
ただ楽しむだけじゃなく、作る側に
ーーちなみに、ずっと気になっていたのですが「シシャモ」というあだ名の由来は?
小学校の頃のあだ名が「シシャモ」だったんですよね。給食で出たシシャモの唐揚げが大好きで、何杯も何杯もお代わりしていたらあだ名になりました(笑)。
ーーまさかのシシャモの唐揚げ!(笑) 当時からゲームはよくやっていたんですか?
はい。小学生の頃からゲームが好きでしたね。当時はちょうど『Wii』が発売してしばらく経った頃だったので、よく2歳上の兄と一緒にマリオをやっていました。
ーー自分自身でゲームを作り始めたのはいつ頃?
簡単なゲームを作り始めたのは小学校4年生ですね。映画や本が好きな兄が、自分でも漫画を描いているのを見て、僕も何か作れたらいいなとはずっと思っていたんです。
そんななか、夏休みに近所の大学でやっていた「Scratch(スクラッチ)」というゲーム制作ソフトを触る子ども向けイベントに参加してみたら、すごく面白くて。そこからゲーム作りに興味を持つようになり、中学1年生の時にライフイズテックのサマーキャンプに参加しました。
https://camp.life-is-tech.com/
ーーサマーキャンプはどうでしたか?
すごく楽しかったです。ゲーム制作自体が楽しいのもあったし、趣味が近い人たちがたくさんいるライフイズテックの環境自体、とても居心地が良かったですね。僕はゲームのなかでも『MOTHER』がすごく好きなのですが、メンターの方もたまたま同じく『MOTHER』ファンで、いろいろお話ができたのが嬉しかったです。このサマーキャンプに参加してからは、本格的に完全オリジナルのゲームを作るようになりました。
頑張れるのは、より面白いゲームを作りたいから
ーーそれでは、今回日本ゲーム大賞「U18部門」決勝大会で優勝した『大倉庫カンパニー』についてお話を伺っていきたいのですが、これはどんなゲームなのか教えてください。
『大倉庫カンパニー』は、一言でいうと「新人教育パズルゲーム」です。プレイヤーは「大倉庫カンパニー」の社員となり、自分の動きを完璧にマネしてくれるバイト君を指導しながら、倉庫整理(=パズルを解く)をするゲームになっています。
ーー斬新なアイデアだなと感じました。何から着想を得たのでしょうか。
夏休みに『ドロステのはてで僕ら』というSF映画を観たんです。劇中に、2分先の未来の映像が見えるタイムテレビが出てきて、テレビ同士を向かい合わせると2分の時差でどんどん繋がっていくのですが、そのパズルみたいな構造がめちゃくちゃ面白くて。
そこから、時間を繰り返すゲームを作ったら面白いのではないかと思ったのが最初のきっかけです。だから最初はバイト君や社員という関係性やストーリーも全くなく、ただ“繰り返す”ということをキーワードに、ゲームのシステムから考えていきました。
ーー面白い。ゲームの構造から先に考えるんですね。
僕は基本的にいつもシステムから考えていますね。おこがましいけれど、このゲームのアイデア自体、すごく面白いと思うんですよ(笑)。そのアイデアをパズルに組み込むという部分が、今回すごく上手くできたなって。「面白いパズルゲームとは何か」をとことん深堀りした結果、パズルの質自体も向上したと感じています。
ーー自分で面白いって断言できるのはすごく素敵なことだなと思います! 制作するなかで、特に苦労した部分はどこですか?
ゲームシステムをユーザーに伝える部分ですね。パズルや構造にこだわったぶん、それらを見せるためのストーリーや背景の部分をかなり工夫しました。実は昨年度ファイナリストで敗退したときに、審査員の方からその部分のフィードバックをいただいたんです。「プレイヤーにわかりやすく見せるためのストーリーがあるといいよね」って。
ーー前回の作品では、ストーリーの部分はあまり重視していなかった?
そうですね、僕はもともとゲームシステムさえ面白ければいいという考えを持っていて。前回作った『KURAYAMI RUN』というゲームも、シンプルな見た目でスタイリッシュなところが良いと思っていましたが、わかりにくいという評価だったんですよね。
▲日本ゲーム大賞2021「U18部門」決勝大会に進出し、惜しくも敗れた『KURAYAMI RUN』。暗闇の中の迷路を進んでいくアクションゲーム。https://unityroom.com/games/kurayamirun
結局ゲームって、プレイしてくれるユーザーがいないと成り立たないものなので、できるだけ遊び手のストレスがない状況をつくるためにも、今回はどうやって見せるか、どう説明するかという部分に重きを置いて制作しました。
ーー前回の課題を踏まえて、よりユーザー視点に立ってゲーム制作をするようになったと。
そうですね、常にユーザーがいることを意識しながら作っていたと思います。ただ、今まで伝える部分を意識的にやったことがなかったですし、繰り返しの動きをどう見せるかというアイデアが全然浮かばなくてめちゃくちゃ苦労しましたね……。最終的に「社員がやったことだけ完璧に真似するバイト」という設定を思いついたのでよかったですけど(笑)。
ーー全部一人でゲーム作りをしていれば、当然苦手分野もありますよね。壁にぶち当たってもシシャモくんが頑張り続けられたのはなぜ?
やっぱり面白いゲームを作りたいという願いがあるので、「面白くなるならやらないといけないよな」という意識はあったと思います。ずっとシステムが大事だと思い続けてきましたが、それ以外の効果音や音楽、ストーリーなども結局全部ゲームのクオリティに直結してくるものだと前回大会で強く感じたので、苦手なことも頑張れたのかなと思います。
ーー「面白いゲームを作りたい」という思いがシシャモくんの原動力なんですね。それで今回満を持して優勝を果たしたわけですが、発表されたときの気持ちはどうでしたか?
正直、まさか優勝できるとは思っていなかったんですよね。
ーーえ! そうなんですね(笑)。
同じく決勝に進んだ候補者の中に、普段Twitterでフォローさせていただいている方もいて、制作が早いしクオリティも高いし「これは敵わないな……」と思っていたんです。そういう方が他にも複数いらっしゃって、まだまだ実力が足りないなと感じていたので驚きました。でもすごく嬉しかったですし、最近トロフィーが届いてやっと少し実感が湧いてきました。結構重いんですよ。
ーーおお、嬉しい重みですね! 審査員の方たちからはどんなコメントをいただきましたか?
「パズル自体が面白い」だったり「構造自体が新しくて感心した」といった評価をいただいたのですが、中でも特に嬉しかったのが「動機付けがきれいで楽しいゲームでした」というコメントで。前回の課題を踏まえて「伝わってくれ!」と思いながらストーリーやチュートリアル画面を作っていたので、きちんと伝わったことへの安心感を強く感じました。
ーー前回の悔しい思いを乗り越えて、きちんと結果に結び付けているのが素晴らしいなと思います。苦労した部分を褒めてもらえると特に嬉しいですよね。
いや〜嬉しかったですね……! 今のところは、この『大倉庫カンパニー』のボリュームを増やすことが次の目標です。ステージ数を増やすのももちろんですが、よりわかりやすくしていきたいなと。アプリもリリースする予定なので、初見の人が遊んでも楽しいなと思ってもらえるように、アップデートをしていかなければなと考えています。
「ゲームを作れる」その自負心があることが嬉しい
ーーアプリのリリースも楽しみです! では少し抽象的な質問になりますが、シシャモくんにとってゲーム作りの魅力とは何ですか?
やっていて一番楽しいと感じるのは、やっぱりシステムの深堀りやアイデアを考える部分ですね。自分が面白いと思えるゲームシステムをひらめいて、それをどんどん深堀っていくと、ゲームシステム側から自動的に発展していくようなことがよくあるんですよね。
ーーへ〜! 漫画家さんがよく言う「漫画の登場人物が勝手に動いて物語ができていく」みたいな感じなのかな。
「ここが面白い」というのをゲーム側から引き出してくれるような。そういった部分も魅力だなと感じています。あとは、自分のゲームで遊んだ人に面白いって言ってもらえると、純粋に作ってよかったなって思いますね。
ーーうんうん。ゲーム作りやライフイズテックに出会って、シシャモくんの中で変化したことは何かありますか?
あまり良くない話ですけど……「自分はゲームをつくれる」という自信が少しあります。たとえばテストの点数が悪かったときに、「まあでも自分はゲームを作れるし」というマインドに持っていったりします(笑)。
ーー全然悪いことじゃないし、むしろそれだけ自信を持てるものがあるのは素晴らしいと思います! 心のお守りにもなるし。
たしかに、ものを作っているんだっていう自負心があることは、すごく嬉しいことですね。作品を観たり受け取ったりするだけだとすごく……なんだろう、なんかやっぱり満たされないというか。
それだけでも十分楽しいし、それに対して感想を考えるのも素晴らしいことだと思うけれど、僕はやっぱり作る側にならなければという感覚が小さい頃からあるんですよね。それは、オリジナリティを追求していた兄の影響が大きいんだと思います。
ーーそんなシシャモくんの将来の夢は?
やっぱり、面白いゲームを作れる人でありたいという願いがあるので、ゲーム制作の道には進むと思います。ただ、今まで絵を描いたり音を拾ってきたり、システムを作ったりと全部一人でやってきて、一応全部できるけれど一つの作業に熱中したいという気持ちもあるんですよね。ゆくゆくは仕事でもシステムを考える部分に没頭できたら嬉しいなと思っているので、まずは他の人と共同でゲームを作ることを経験したいです。
ーー誰かと共同で作ることでまた新しい視点を得られるかもしれませんね。では最後になりますが、これからゲームを作りたいと思ってる同世代の中高生にアドバイスをお願いします。
ゲームを作ったら、未完成な状態でもいいからどんどん世に出していってほしいなと思います。僕自身も、スクールに通って一年経たないうちにリリースしました。ゲームとしてはまだまだ粗削りだったけれど、とにかくインターネットにあげて反応を見てみよう、ということで早めにアップできたのがすごく良かったなと。
ーーそれはなぜ?
自分にない視点からフィードバックをもらえるのももちろんですし、やっぱり出してみると周りの人に褒めてもらえるんですよね(笑)。それがモチベーションにもなりますし、より面白いゲーム作りにも繋がるので、世に出すのは本当に良いことしかないと思います!
反応が怖い気持ちはあるかもしれないけれど、もし何か言われても変えた方がいい部分がわかっただけ得したと思えば大丈夫。出し惜しみせずに、人にどんどん遊んでもらったり、大会に出したりしていってほしいですね。
ーーシシャモくんも言っていたように、ゲームはユーザーがいてこそ成り立つものだから、たくさんの人に意見をもらえる状況をつくるのは大事ですね。シシャモくんの活躍も引き続き応援しています! ありがとうございました!
取材を終えて
シシャモくんの第一印象は、大人びていて落ち着いた青年。ですが、自分で作ったゲームの話になると、キラキラと瞳を輝かせて前のめりで語る様子がとても印象的でした。
ゲームが大好きだからこそ、より面白いものを作るためなら悩みながらも困難に立ち向かっていく。真摯にものづくりに向き合い、前進しつづけるその姿は、年齢問わず多くの人に勇気を与えてくれるものだと感じました。作ったら臆せずとにかくリリースし、より良いものへとアップデートしていくスタンスは、筆者も見習いたいなと思います……!
ライフイズテックの公式noteでは今後も、好きを追求しながらデジタル領域で活動している個性的な先輩を紹介していきます。どうぞお楽しみに◎
取材・文 むらやまあき
大倉庫カンパニー:https://unityroom.com/games/daisouko-co
シシャモtwitter:@shishamo_create